ほしぞら

福永眞由美 公式ブログ

こころの散歩道(しんしんと降る雪の音なき音)




「薫陶」といふ言葉が 好き。

父のお陰で この世で
磨き抜かれた魂が 高く にほひたつやうな方々に 
お会ひすることが出来ました


瑠璃赤珠



父の百日祭の日 
「歌を詠んで送りなさい。
私がお父様に代わって かならずお育てします」
と言ってくださった 歌人の原真弓先生。

お送りした 拙い私の歌に
びっしりと きびしい添削の朱を入れて下さり
あたたかい励ましのお言葉とともに導いていただいた
四年余りの日々。

原真弓先生が逝かれたのは 大雪の翌日。

最後のお別れをした先生の家のお庭には 
積もった雪が 日にかがやいて
白い水仙の花が しづかに咲いてゐました。
 


窓辺の水仙

一月二十四日 
毎年の 先生のご命日に
私は 水仙の花を飾ります。






夏の日



浅野晃先生に 初めてお会ひしたのは
原真弓先生が逝かれる 前の年の夏
昭和五十八年 七月 三日のこと。

武蔵野歌会記念講演の講師として 
浅野先生が 大東農場にお越しになられ
私が ご接待役としてお迎へした時でした。

この時から この世での最後のお別れの日まで
先生からいただいたご恩 気高いお言葉の数々は
今も私の心を照らし 導き続けて下さいます。 





雪椿



浅野先生が逝かれたのも 一月の雪の日。

浅野晃先生の教へ子であられる 
根本正義先生がご連絡を下さり
病床の浅野先生に 最後のお別れをさせていただきました。
 
小雪舞ふ 浅野先生の野辺の送りの道に咲いてゐた
椿の花のくれなゐは 今もわが胸に鮮やかです。 






雪の帰り路3

今日は 雪。

雪景色

しんしんと雪の降る帰り道を
とぼとぼと 泣きながら歩いたあの日から
二十四年が経ちました。

先生。
少しはご恩返しが できたでせうか。



           





            しんしんと降る雪の



                しんしんと降る雪の音無き音


     
     昨年十一月、初めての絵と詩の作品展を開いた。
     それは沢山の不思議が重なって実現されたもので、目的の大きなもののひとつは、
     詩人浅野晃先生へご恩返しとして捧げるものだった。
     父が亡くなってから歌以外の文学の面で最も大きく導いて下さり、お力になって下
     さったのが浅野先生だった。
     まだ幼かった子を育て、生活のために働き、勉強をするのは眠る時間を削るしか無
     かったあの頃、先生は時々お訪ねする私を、いつもあたたかく励まし続けて下さった。
     「時間が無かったら、一日十分、二十分でいいんだよ。とにかく倦まずたゆまず書き
     続けていってごらん。それを十年続けてごらん。あなたはきっと、芽が出るよ」
     「大丈夫だよ。神様が見ていて下さるからね。絶対にあきらめてはいけないよ」
     「焦るんじゃないよ。コツコツと書き続けてゆくんだよ。神様が導いて下さるからね」
     先生のマンションまでは、地下鉄を降りて歩いて十分ほどの道のりだった。
     貧しくいつも疲れ果て、泣きべそをかきそうな気持ちでお訪ねするのだけど、帰り道
     は先生からいただいたお言葉で、私の心はぽっとあたたかく灯がともっていた。
     父の十年祭を前に童話の本が初出版されお届けした時の、それはそれは喜んで
     下さった先生のお顔は忘れられない。
     「貴女がこんなにすごい文章を書いたなんて、僕には信じられないんだよ。きっと
     お父様があの世から書かせて下さったんだねえ」
     先生から体調が難儀であるとのおたよりをいただき、入院されるという先生をご自宅
     にお見舞いに伺ったのは、その翌年の暮れのことだった。
     体調がとてもお悪かったにもかかわらず、先生は優しく私の手を握って下さり、私の
     生涯を照らすお言葉を下さった。
     「貴女は大丈夫だよ。神様がきっと導いて下さるからね。美しいものに心を向けてね。
     気高いものに身を捧げて生きてゆくんだよ」
     浅野先生の最晩年の作品に「告別」という詩がある。


              告別               浅野晃

           坊やたち たのしかったな
           つぎの生にも
           いっしょに生まれあはせて
           いっしょに遊ぼうな
           夏になればまた海へゆかう
           おもひきり泳がう
           さあしっかり手を握るんだ
           いいかいおまへもおまへも
           なにか困ったことや苦しいことがあったら
           大きな声で
           天にむけて
           おぢいちゃんと呼ぶんだ
           いいかい 大きな声で
           おぢいちゃんと呼ぶんだよ

     
     この詩をもとにイメージをふくらませて書いた詩物語「クジラ雲と夏帽子」が作品展
     のメインだった。
     六日間で四百名に近い方が会場を訪れて下さり、その中で涙を一杯溜めて観て
     下さった浅野先生の門下生のかたが、感想を書いて下さった。
     「浅野先生の思い出は、何故か満天の星と真っ白な雪です。あらためてそれを思っ
     た一日でした」
     平成二年一月二十九日。先生はお亡くなりになられた。
     その前日病院にお見舞いに伺い、もうほとんど意識はおありでなかった先生とこの
     世の最後のお別れをした。
     しんしんと雪の降る帰り道を、とぼとぼと泣きながら歩いた。
     勇敢に生きることと、気高いものに身を捧げて生きることを教えて下さった先生を思
     い、あの時胸に刻んだことがある。
     「私も先生の様に、人を励ましてあげられる人間になろう。一生懸命自分を磨いて、
     いつかきっと、そうなろう」
     あの日のしんしんと降りしきる雪の音無き音が、今も胸に聞こえる様な気がする。                               

                               ((「光の泉」 平成十六年三月号掲載)
     








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